くるみ割り人形 – Nutcraker

クリスマスシーズンに街中から聞こえる音楽に、誰もが必ず一度は耳にする「くるみ割り人形」。「くるみ割り人形」はチャイコフスキー三大バレエと呼ばれるうちの1つです。これまで「白鳥の湖」「眠れる森の美女」の2作品をお話ししました。今回は最後の作品、「くるみ割り人形」についてお話しします。

目次

1 -「くるみ割り人形」について
2 – 登場人物
3 – あらすじ
4 – 特徴

1「くるみ割り人形」について

1890年、チャイコフスキー作曲によるバレエ「眠れる森の美女」がマリンスキー劇場で上演され、成功を収めました。これに満足した劇場支配人イワン・フセヴォロシスキーはチャイコフスキーにオペラとバレエを2本立てで上演したいと次回作を依頼しました。この上演形式は当時のパリ・オペラ座に倣ったもので、オペラを公演の中心とし、その後に余興のような位置づけでバレエを上演するというものでした。
1890年の末にオペラの演目は、チャイコフスキーのオペラ作品「イオランタ」に決まり、バレエの題材はフセヴォロシスキーが選び、E.T.Aホフマンの童話「くるみ割り人形とねずみの王様」をアレクサンドル・デュマ・ペールが翻案した「はしばみ割り物語」を原作とすることになりました。バレエの台本は、マリインスキー劇場のバレエマスターであるマリウス・プティパが手掛けました。チャイコフスキーはこのバレエの題材をあまり気に入っていませんでしたが、プティパの指示書きを受け取り作曲を進め、1892年3月頃に完成させました。振付は、当初プティパが担当する予定でしたが、稽古が始まった頃からプティパが病に倒れて、部下である副バレエマスターのレフ・イワノフが代行することになりました。

1892年12月マリンスキー劇場において、オペラ「イオランタ」とバレエ「くるみ割り人形」が初演されました。初日の主要キャストはいずれも舞踊学校の生徒で、クララ役は当時12歳でした。
初演で楽曲は評価されましたが全体的に成功とは言えませんでした。主役のバレリーナが演じる金平糖の精が第2幕になるまで登場せず、見せ場が少なかったことやクララがお菓子の国へ行ったところで幕が下りてしまうので、その後クララがどうなるのかわからず、観客の納得のいく形で話が完結しなかったこと、そして衣装も評価されませんでした。それでも「くるみ割り人形」は、「イオランタ」と共に初演から上演され続けました。1895年から1900年までの約4年半の間はマリインスキー劇場のレパートリーから外されていました。1900年4月に「くるみ割り人形」は久々に再演され、1909年にもニコライ・セルゲエフによる改訂版が上演されましたが、演出に大きな変更が加えられることはありませんでした。「くるみ割り人形」は改訂演出により上演され続けました。そして、1954年、20世紀最大の振付家ジョージ・バランシンによりニューヨークで「くるみ割り人形」を上演し、大ヒットさせました。そして今日に至るまでクリスマス恒例の演目として世界中で公演されるようになりました。

〔改訂演出〕

・アレクサンドル・ゴルスキー版(1919年、ボリショイバレエ)
ゴルスキーはロシアの俳優で演出家のスタニスラフスキーの影響の下、演劇性重視のバレエ志向でした。物語を原作小説に近づけるため、金平糖の精とコクルーシュ王子の役を削除し、結末をクララとくるみ割り人形が王位に就くというものに変更しました。この演出は定着しませんでしたが後世の改訂版に一定の影響を与えました。

・ヴァシリー・ワイノーネン版(1934年初演、マリンスキーバレエ)3幕構成で、主人公の名前はマーシャ。マーシャを大人のダンサーが演じ、最終幕ではマーシャがくるみ割り人形の王子とパ・ド・ドゥを踊ります。幼い少女が夢の中で大人の女性へと成長を遂げるという明確なテーマが作品にもたらされました。主人公の少女を大人のダンサーが踊る演出は、ワイノーネン版以降、『くるみ割り人形』の演出の一つとして定着しています。

・ピーター・ライト版(1984年、英国ロイヤルバレエ)原作小説の設定を取り入れて、くるみ割り人形の正体はドロッセルマイヤーの甥とされています。ドロッセルマイヤーは甥にかけられた呪いを解くためにクララにくるみ割り人形を託し、クララの活躍によって甥は人間の姿に戻ります。またこの演出では、イワノフによる原振付を可能な限り再現しています。なお、クララと金平糖の精、くるみ割り人形とお菓子の国の王子は、イワノフ版と同じく、それぞれ別々のダンサーが演じます。この版は現在に至るまで、英国ロイヤル・バレエ団のレパートリーとなっています。
・ジョージ・バランシン版(1954年初演、ニューヨークシティバレエ)

・ユーリー・グリゴローヴィチ版(1966年初演、ボリショイバレエ)

・ルドルフ・ヌレエフ版(1967年初演、スウェーデン王立バレエ)

・ジョン・ノイマイヤー版(1971年初演)
物語設定を大きく変更し、現代的に再解釈。バレリーナに憧れる少女が夢の中でバレエの舞台裏を垣間見るという設定。

・マシュー・ボーン版(1992年初演)
孤児院が舞台。

・モーリス・ベジャール版(1998年初演)
振付家自身の少年時代を題材とした自伝的作品。

2 登場人物

・クララ(またはマーシャ、マリー)…主人公の少女。

・ドロッセルマイヤー…クララのお父さんの友人。クララの名付け親。

・くるみ割り人形…ドロッセルマイヤーがクララに贈った人形。魔法をかけられて人形の姿にされた王子。

・金平糖の精(またはドラジェの精、シュガープラムの精)…お菓子の国の女王。

・フリッツ(フランツ)…クララの弟。

3 あらすじ

〔第一幕 第一場〕
時は19世紀のドイツ。
クリスマス・イブの夜、主人公クララの家の大広間では、友人たちを招いて盛大なクリスマスパーティーが開かれています。
そこにクララの名付け親のドロッセルマイヤーがやって来て、子供たちにプレゼントをあげたり、手品や人形芝居を見せて子どもたちを夢中にさせています。クララは可愛らしくないくるみ割り人形をもらいましたが、クララはなぜかその人形が気に入ります。クララの弟(兄)のフリッツが人形を壊してしまいますが、ドロッセルマイヤーが修理します。やがてパーティーは終わりとなり、客たちは家路につきます。

みんなが寝静まった深夜、くるみ割り人形のことが気になったクララは人形の置かれている大広間のクリスマスツリーの元へと降りてきます。その時、時計が12時を告げ、鐘の音とともにクララの体は人形くらいに小さくなってしまいます。
そしてそこに、ねずみの王様とその手下たちがやってきて、くるみ割り人形の指揮する兵隊人形たちと戦いはじめます。戦いはくるみ割り人形がねずみの王様に負けてしまいそうになります。クララがとっさに投げたスリッパがねずみの王様に命中し、その隙にくるみ割り人形がねずみの王様を倒します。そして、くるみ割り人形は人間の王子の姿に変わり、助けてもらったお礼にお菓子の国へ誘います。

〔第一幕 第一場〕
くるみ割り人形であった王子とクララはお菓子の国へ向かう途中、雪の国を通ります。雪の女王や雪の精たちが、舞い踊りながら彼らを見送りました。

〔第二幕〕
お菓子の国に到着した2人は、女王である金平糖の精に迎えられます。チョコレート、コーヒー、お茶、キャンディなどの精たちがクララを歓迎します。楽しい夢はやがて終わりを迎えます。朝が訪れ、自分の家で目を覚ましたクララは、傍らのくるみ割り人形を優しく抱きしめます。

〔演出による違い〕
「くるみ割り人形」の演出は、クララと金平糖の精の演じ方によって2つに分けることができます。

・クララを子役が演じ、金平糖の精を大人のダンサーが踊るもの(イワノフ版など)

・クララと金平糖の精、両方を大人のダンサー演じるもの(ワイノーネン版など)
この変形として、クララと金平糖の精を別々の大人のダンサーが演じる(ライト版など)ものもあります。

4 特徴

・作品全体が楽しい雰囲気。
クリスマスを舞台にした作品で、子供たちが楽しそうに走り回る場面や人形のコミカルな踊りで、観ているだけで楽しい気持ちになります。特に、第二幕のお菓子の国の精たちが見せてくれる様々な踊りは観る者を魅了するでしょう。

・親しみやすい音楽。
クリスマスシーズンになると、誰もが一度は耳にする音楽です。某携帯会社のCMで「葦笛の踊り」が使われ、可愛らしく軽快なリズムの音楽が多くの人の耳に残りました。

・美しいコールド・バレエ。
「くるみ割り人形」の見せ場の1つに「雪片のワルツ」があります。複数人のダンサーが雪の精となり美しく踊る様子は本当に空から雪が舞い降りてくるようです。そして、バレエ音楽には珍しく歌詞のない歌が入り、幻想的な世界が映し出されます。

・金平糖の精
「くるみ割り人形」の最高潮の盛り上がりは金平糖の精です。細かな足さばきや、しなやかな腕の動きがまるで本物の輝く金平糖のようです。この踊りは、ダンサーにとっても難易度の高いものです。

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