コッペリア – COPPELIA
バレエの発表会でよく演目に上がる「コッペリア」。スワニルダやフランツのヴァリエーションはコンクールの定番です。そしてこの作品はバレエの歴史において重要な作品です。今回はそんな「コッペリア」についてお話しします。
目次
1 – 「コッペリア」について
2 – 登場人物
3 – あらすじ
4 – 特徴
1 – 「コッペリア」について
ドイツの小説家、E.T.A.ホフマンの「砂男」が原作。「くるみ割り人形」の原作の作家です。「砂男」は人形に恋をした男の狂気の物語で、台本を手掛けたアルティール・サン・レオンとシャルル・ニュイッテルによって明るい陽気なコメディテイストに再構成されました。
音楽はフランス・ロマン派の作曲家レオ・ドリーブ。レオ・ドリーブは「ジゼル」を作曲したアドルフ・アダンに師事、作曲を学びました。
振り付けは台本を手掛けたアルティール・サン・レオン。
この作品が作られた当時、フランスの絵画の世界ではすでに写実主義(ありのままを
脚色することなく描く描写)が広まっていました。ロマン主義時代のバレエは芸術としての価値が弱まっていました。そこで、再びフランスバレエを盛り上げようと総力を上げて作られたのが「コッペリア」です。作品の完成までに3年の月日がかかりました。
1867年、パリ万博博覧会が開かれ、このとき 多くの機械の展示されました。この展示の影響を受けて作られたバレエが「コッペリア」です。「コッペリア」のからくり人形はまさにフランスの時代を象徴する物でした。
ちなみに、このパリ万博博覧会に日本からの出品はこのときがはじめてでした。
1870年5月25日、パリ・オペラ座にて初演。
スワニルダ役は当時16歳のジュゼッピッチーナ・ボツァッキ(Giuseppina Bozzacchi)。フランツ役は美人バレリーナとして有名だったウジェニー・フィオクル(Eugénie Fiocre)が男装して演じました。当時、バレエ人気が落ちていて男性ダンサーが不足していて女性が男性の役を演じるのは珍しくありませんでした。パリ・オペラ座では1958年まで女性がフランツ役を演じました。
初演はウェーバーのオペラ「魔弾の射手」と一緒に上演されました。ナポレオン3世が観劇に来ていたため時間に制限があり、第三幕をカットして上演しました。
「コッペリア」は今までのロマンティック・バレエとは違います。今までのロマンティック・バレエは「ラ・シルフィード」や「ジゼル」など、幻想の世界の精霊を表現しています。しかし「コッペリア」は数多く出てくる人形によって非現実世界に憧れると言うロマンティック・バレエの特徴を表現しています。
これまで精霊が出てくる作品ばかりだったため観衆に飽きられていましたが、精霊の動きとは全く異なる人形の直線的な動きは大きな話題になり大好評でした。
初演から2ヶ月後、フランスはプロイセンに宣戦布告し、戦争に突入。パリ・オペラ座も閉鎖されます。初演で主役スワニルダを演じたジュゼッピッチーナ・ボツァッキも亡くなりました。
1871年に劇場は再開されますが、かつての人気を取り戻すことは出来ませんでした。こうしてフランスで発展したバレエはロシアへと移っていきます。
「コッペリア」はロマンティックバレエ最後の作品となります。後期ロマンティックバレエとも呼ばれています。
「コッペリア」は人形をテーマにしたバレエ作品の中で最も影響力を持ち、プティパの「くるみ割り人形」やフォーキンの「ペトルーシュカ」に大きな影響を与えました。
この作品のタイトルは「コッペリア」ですが、主役はコッペリアではありません。スワニルダとフランツの恋物語です。
※ロマンティックバレエ…「ロマンティックなバレエ」と言う意味ではなく、ロマン主義時代のバレエのこと。フランス革命後のロマン主義の影響を受けて生み出されたバレエ。1830年〜1840年に全盛期を迎えた。
2 – 登場人物
・スワニルダ/Swanhilda…明るい村娘。フランツの恋人。
・フランツ/Franz…村に住む青年。スワニルダの恋人ですが、コッペリアのことを人形と知らず好きになってしまう。
・コッペリウス/Dr. Coppélius…人形作り職人。気難しくて変わり者。
・コッペリア/Coppélia…コッペリウスが作ったからくり人形。
・スワニルダの友人達/Firends…スワニルダと一緒にコッペリウスの家に忍び込んだり、行動をともにする。
3 – あらすじ
〔第一幕〕
ポーランドのある農村。明るい村娘のスワニルダの向かいにコッペリウスと言う変わり者の人形職人がいました。その家にはコッペリアと言う可愛い少女が住んでいて、いつもベランダで読書をしていました。スワニルダと婚約しているフランツは2階のベランダにいるコッペリアに心を奪われてしてしまいます。スワニルダはそんなフランツを見て嫉妬し喧嘩してしまい、婚約を解消してしまいます。誰もコッペリアがコッペリウスが作ったからくり人形だと知りませんでした。ある日、コッペリウスが街へ出掛けるとき、家の鍵を落としてしまいます。その鍵を拾ったスワニルダは友人達とコッペリウスの家に忍び込み、コッペリアに会いに行こうと企みます。
〔第二幕〕
スワニルダと友人達はコッペリウスの家に忍び込みます。家には様々な人形があり少女達は物珍しそうに人形たちを見て周り、コッペリアもまた人形だったと気が付きます。そこへコッペリウスが帰って来て、少女たちを見てカンカンに怒り、少女たちを追い出します。しかし、スワニルダだけコッペリウスの目を逃れ、カーテンの裏に身を潜めます。そこへ事情を知らないフランツがコッペリアを一目見ようと忍び込みました。フランツを見つけたコッペリウスは怒りますが、名案が浮かびます。かねてから人形のコッペリアに命を吹き込みたいと思っていたコッペリウスはフランツが寝ている間に彼の命をコッペリアに吹き込もうと言うものです。コッペリアを取り出すコッペリウス。しかしこの時、コッペリウスが取り出した人形はなんとコッペリアに扮したスワニルダだったのです。スワニルダはコッペリウスの思惑通りにさせまいとコッペリウスをからかいます。その騒動で目が覚めたフランツは、コッペリアの真の姿に気が付きます。そしてスワニルダに謝罪し、二人は和解します。
〔第三幕〕
二人は結婚の日を迎えました。二人をお祝いするお祭りの日です。人形を壊されて怒っていたコッペリウスですが、スワニルダとフランツが謝りコッペリウスは許すことにします。村人みんな一緒になって二人をお祝いし、「時の踊り」「曙の踊り」「祈りの踊り」「仕事の踊り」「結婚の踊り」「戦いの踊り」「平和の踊り」と祝福が続きます。そんな歓喜が高まる中、舞台の幕が閉じます。
〔演出による違い〕
・ピーター・ライト版(バーミンガム・ロイヤル・バレエ)
第三幕でコッペリアに命が吹き込まれ、本物の人間になる。
・ローラン・プティ版
二幕構成。コッペリウスもコッペリアを愛していて、最後の場面では結婚を祝う賑わいをよそに一人呆然と立ち尽くすコッペリウスと暗いストーリー設定。
・ヴィノグラードフ版(キーロフ・バレエ)
プティパ版がベース。第三幕の結婚でスワニルダはフランツにまだ怒っており、女性達と男性達で争いが起こる等、いくつか改訂している。
・ペギー・ヴァン・プラーグ版(オーストラリア・バレエ)
・アンティール・サン・レオン版
パリ・オペラ座での初演時と同じ。女性がフランツを演じる。
4 – 特徴
・スワニルダの可愛らしさ
主役のスワニルダは明るく誰からも好かれる女の子。表情豊かに笑ったり怒ったり、コミカルな動きなど観ている人を楽しませてくれます。
・人形のコミカルな動き
コミカルな動きは観ていて楽しい気分になります。
・様々な民族舞踊が観れる
ポーランドのマズルカ、ハンガリーのチャルダッシュ、スペインのボレロ、アイルランドのジークなどバラエティ豊かな民族舞踊を観ることが出来ます。
・第三幕のお祝いの場面
コッペリアはロマンティック・バレエでロマン主義時代の作品です。クラシックバレエの華やかな踊りと違い、村の儀式のように踊られます。
・演出による違い
演出家によりストーリーの違いは、コッペリアが人形と判明してから結末まで演出家によって異なります。登場人物の中でも特にコッペリウスの扱いが演出家によってどのような違いがあるか、比較すると興味深いです。